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まえがき

HB

硬式飛行船をめぐる人達の伝説

20世紀は科学技術の時代であった。産業革命の成果を人類の繁栄に役立つ技術へと発展させ、19世紀から継続して原動機や電気を応用した多くの製品が発明された。

20世紀の最も偉大な発明を2つ挙げよと言われたら、私は躊躇なく航空機とコンピュータを挙げる。航空機は20世紀初頭の発明であり、コンピュータは中期に発明され、それぞれに人類に大きな貢献を果たしている。

この2つは同じ条件で比較することが出来ない。航空機は人や物を載せて空を飛ぶという具体的で明確な目的があり、その効用や性能を数値的に示すことが出来る。これに対してコンピュータはあまりにも汎用的なため、その目的が限定できない。航空機の制御や運航にもコンピュータは多用されているが、これについては他の機会に譲ることにして、ここでは航空機に限定して取りあげることにする。

2度の世界大戦で飛躍的発展を遂げた航空機であるが、北大西洋を航空機で渡った人の数は1948年から52年頃は20~30万人規模であり、船舶で渡航した人数の半分以下であった。それが20年も経たないうちに700万人を越え、船舶による渡航者の30倍に達する勢いとなった。

乗客や貨物を載せて2地点間を空輸する企業をエアライン、そこで運用される航空機をエアライナーと呼ぶと、最初のエアラインは1909年に設立されたDELAG(Deutsche Luftschiffahrts A.G.:ドイツ飛行船輸送会社)であった。

DELAGがツェッペリン飛行船製造会社(Luftschiffbau Zeppelin GmbH)に発注した最初の飛行船「ドイッチュラント(LZ7:Deutschland)」はデュッセルドルフで運航開始されたが、まもなくトイトブルクの森で立木に当たって解体され、代船として建造された「ドイッチュラントⅡ(LZ8:Deutschland Ⅱ)」もデュッセルドルフ格納庫の屋根に掛かって壊れてしまった。

しかし、これらの事故に負けることなく「シュヴァーベン(LZ10:Schwaben)」、「ヴィクトリア・ルイゼ(LZ11:Viktoria Luise)」、「ハンザ(LZ13:Hansa)」、「ザクセン(LZ17:Sachsen)」を建造し、1914年に世界大戦が始まるまでに経営基盤を固めることが出来た(「LZ9:ZⅡ Elsatz」、「LZ12:ZⅢ」、「LZ15:ZⅠ Elsatz」、「LZ16:ZⅣ」は陸軍に、「LZ14:L1」は海軍に納入された)。

このころ、飛行機の方では1913年12月4日にセントピーターズバーグ・タンパ・エアポートラインが開設された。米国フロリダ州のタンパとピーターズバーグの間で運航されたのは単葉複座のベノイスト14型飛行艇であった。しかし、この飛行機による世界最初の定期運航旅客輸送路線は採算にのらず4ヶ月で運航中止となった。

第一次大戦のあとヨーロッパ、アメリカではエア・ラインが続々と誕生したが、その路線は国内か隣国間に限られていた。

大西洋や太平洋を渡る定期空路はツェッペリンに代表される硬式飛行船の活躍する舞台であると考えられていた。エッケナー博士たちが旅客用大型飛行船建造資金のためにツェッペリン・エッケナー義捐金を設立してドイツ国内を講演してまわっていた頃発行された書籍にはシュッテ・ランツ社の大型飛行船「アトランティック」の外観、船内など完成予想図が紹介されている。

しかし、1930年の英国飛行船「R101(G-FAAW)」、1937年の「ヒンデンブルク(LZ129:Hindenburg)」の惨事により飛行船による長距離飛行の時代は突然終焉を迎えた。

ルフトハンザやエールフランス・英国航空などの前身各社が北大西洋航空路、南米航空路の開発に乗り出したが、これらの路線はドルニエ「ヴァル」、ショート「エンパイア」、シコルスキーS42のような飛行艇の独壇場になった。

第二次世界大戦が終わると、各地に空港が整備され陸上輸送機の時代になった。しかし、強力なエンジンを積んで大量の燃料を消費しながら飛ぶ大型ジェット機に、直感的な危惧を感じている人は少なくない。

1970年頃からドイツ、アメリカ、イギリスなどで飛行船のようなLTA(Lighter than Air)航空機に関する検討が、あらためて取りあげられるようになったと紹介されていた。我が国でも細々と飛行船が運航されていたが、現在は複数の飛行船が空を舞っており、2007年11月から遊覧飛行も開始され、高い乗船費用にもかかわらずスケジュールは予約で埋まっていると報じられている。

ここでは「飛行船」という、最も知り尽くされているようで最も知られていない航空機を、開発し運用した先人の足跡を辿り、飛行船を再認識しようと思っている。


参考文献

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