LZ127Profile

「グラーフ・ツェッペリン」で世界周航

KurgartenHotel

第一区間

3ヵ国の人達

前方に身をかがめると、一階の大きなバルコニーに一人のアメリカ人が立っているのが見えた。彼は、ここに留まらなくてはならないために、憂鬱そうに手摺りの向こうにつばを吐いた。彼は、我々がその下の庭でコーヒーを飲んでいた昨日の午後にも同じことをした。
テラスでは、ベルリンから来た二人のイギリス人がウィスキーを飲んでいた。彼らは堂々としてそこに座っており、すべてのイギリス人がそうであるように、その目には海洋を征く民族のまなざしがあった。そして、たとえ彼らが厳しい管理下に置かれたモラルの旗の立った船内居住区にいたとしても、あたかも船橋上に立っているかのように見えた。彼らは堅苦しく形式張って、世論の海を帆走していた。
そこに、優雅なフランス人が若い娘を連れてテラスの階段に降りてきた。彼は乗船客であった。彼の言葉は縦糸のようによどみがなかった。その身体は、ダンスのような身振りであった。湖の前のベンチに、年老いて太った裕福なオランダ人がいた。明るい色のスーツに身を包んで白いゲートルを巻き、丸く黒い帽子の下には健康的で頬のふっくらとした童顔があった。
彼は、まず脚を伸ばし、それから腹を突き出して長く細い葉巻を吸った。

楽団が、グラモフォンに取って代わった。そして、スローテンポなボストンワルツが奏でられた。私は不意に老伯爵を思い出した。
25年前に、子供じみた貴婦人達の物笑いの種になり、ベルリンの城館で嘲笑され、友人たちは気の触れた奴と一緒に通りを歩けないと思って彼を避けていた。そして、今はどうだろう?
いまや、世界各地から人々が世界を航行するドイツのツェッペリンを見ようと集まっている!
そして、その口髭と明るい青い眼は、ヘルメットを被り武装した人達よりも、より賞賛されているのである。

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