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大型旅客用飛行船の黄金時代(21)

LZ127006

Harold G.Dick with D.H.Robinson著 "Graf Zepperin & Hindenburg"

「グラーフ・ツェッペリン」と「ヒンデンブルク」
大型旅客用飛行船の黄金時代


第8章: エッケナー博士に教わった飛行船操縦法(1)

私が得た最も興味深く有益な情報は大型硬式飛行船の運用・操船に関するものであった。これは技術というより技能で、エッケナー博士のもとでドイツ人によって高度に洗練されていた。彼らの比類ない記録は、安全に成就された数千の飛行によってもたらされたものである。飛行船の操縦は飛行機の操縦よりずっと複雑であった。

飛行機は飛翔時、エンジンの推力により大気中を往く翼に働く動的な力によって空中に留まっている。従って、飛行機は空気動力学の原理で飛んでいると言って良い。

飛行船(および気球。飛行船は動力付きの気球に過ぎない)の場合は明らかにそれと異なり、空気より軽いので静止状態で空中に維持される。このように飛行船は空気静力学的である。

従って重要な運転では、水素とヘリウムの2種類のガスだけを考えればよい。不活性なヘリウムはアメリカにだけあり、そn輸出は法律で禁じられていたので、ドイツ人は可燃性の水素を使わざるを得なかったが、そのため「ヒンデンブルク」の事故の前、戦時中にも多くの人命が失われていた。

標準状態で1000立方フィートの純粋な水素の重量は5.61ポンドである。同じ体積の空気は80.72ポンドであるから1000立方フィートの水素の正味揚力は75.11ポンドとなる。如何なる方法でも、この静的揚力を越えることは出来ず、事実 通常は空気の混入による変化はなかった。

ドイツ人達は、揚力計算で1000立方フィートに対して72ポンドと設定していた。海抜1300フィートのフリードリッヒスハーフェンにおける「グラーフ・ツェッペリン」の3,250,000立方フィートの水素による総揚力は210,000ポンドであった。空状態での重量は150,000ポンドで、有効浮力は60,000ポンドであった。

これが乗客とその手荷物と消耗品、乗組員とその所持品、貨物と運送品、バラスト水、備品および予備部品、基本的に重量のないブラウガスのほかに搭載していればガソリンの合計重量になる。しかしながらバロメーター圧力、湿度、気温およびガス温度、あるいはガス純度などが変化すれば総浮力、ひいては有効浮力に影響する。

一般的に空気密度が高く、気温が低く、バロメーター圧力が高ければ揚力は増大し、高温でバロメーター圧力が低ければ低下する。従って硬式飛行船では夏より冬の方が燃料、乗客、貨物を多く搭載することが出来る。

これは明らかに「グラーフ・ツェッペリン」の熱帯地方における運用のハンディキャップであった。湿度は、空気の湿度が高いと幾分揚力が減少したが相対的に影響は小さかった。それに加えて水素は、ゴールドビターズスキンのようなガスタイトな材質でも、常に外に漏れており空気が混入しているので、その混入があきらかにガス重量を増やし、有効揚力を減らしていた。フリードリッヒスハーフェンで、南米飛行のあいだに2~3日の繋船があったり、ヨーロッパから帰投したとき、あるいは復航の前など、ガス嚢は新鮮な水素で100%満充填され純度が維持されていた。

格納庫で搭載中、温度・バロメーター圧力・湿度・ガス純度をチェックし、重量はキールに沿って重心が正確に浮心の下にあるか、飛行船の船首や船尾が重くなっていないかなど、飛行船の船長が細心の注意を払って確認する必要があった。

格納庫から引き出されると「グラーフ・ツェッペリン」は『ウェイ・オフ』され、平衡を確認し重量とガス揚力が等しくバランスがとれているか点検された。その後、数百ポンドのバラスト水が放出され、離陸に必要な静的揚力が与えられた。そのあとも飛行船の静的揚力は常に調整された。

もし、ドイツの離陸標準のように100%ガスで充填されていれば上昇するに従い、膨張した水素が自動調整弁から漏れ、揚力を低減させる。それで飛行船は通常、飛行の初期には重く、飛行を続けるに伴って燃料を消費するので静的に軽くなる。

しかし大型硬式飛行船は、動力付きの航空機として船体を上方あるいは下方に傾斜させることによって自然の翼のように作用して飛行機のような動的浮力を得ることが出来る。「グラーフ・ツェッペリン」は巡航時に全てのエンジンを過負荷で駆動すると船首を5度上げた状態で8トンの浮力を発生することが出来、それに相当する軽さは5度の船首下げで補償することが出来た。(緊急時には「グラーフ・ツェッペリン」が全てのエンジンを全力発揮させると12度で12トンを得ることが出来たが、私の知る限り決してそれが必要になる事態は生じなかった。)

2度を超えるピッチングは「グラーフ・ツェッペリン」の運航上、受け入れがたいほどの抵抗があり、乗客が不快に感じると考えられていたので、飛行船は静的に平衡を保って運用されるべきであり、そのために飛行船が重ければバラスト水を投下し(「グラーフ・ツェッペリン」は自重を減らすためにブラウガスの代わりに、搭載されているガソリンを燃料として使用することも出来た)、軽ければ水素バルブを操作することも考慮されていた。

それに加えてガス温が気温と異なる場合には、飛行船の静的状態を変更することも出来た。「過熱」は通常、太陽熱がガスを暖め、水素が膨張して飛行船を軽くするが、日が落ちてからの「過冷」は飛行船を重くするようにガスに作用する。

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第8章: エッケナー博士に教わった飛行船操縦法(2)へ

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